「Job Description」とは、担当する職位や業務内容、難易度、必要なスキル・経験などが書かれた書類で、欧米企業で主流の「ジョブ型」と呼ばれる職務中心の雇用形態では必須の書とされています。
日本でも、グローバル化が進み、終身雇用・年功序列が崩壊しつつある中、2019年4月には経団連から日本企業に伝統的な「メンバーシップ型」から「ジョブ型」採用の移行についての提言が発表され、多くの企業でジョブ型雇用への関心が高まっています。
ただし、ジョブ型雇用の導入にあたっては、「Job Description」が不可欠であり、「Job Description」が適切に作成・管理されていないとその効果を最大限に発揮することは出来ません。
そこで、本記事では、アメリカ企業での取り組みをベースに、「Job Description」の理想的な作り方・記載内容を解説していきます。
理想的な「Job Description」の作り方
「ジョブ型雇用」を理解する
「ジョブ型雇用」とは、「Job Description」をベースに職務・勤務地・労働時間などを明確に定め、職務の範囲を限定した雇用契約を結ぶ雇用モデルを指します。
そのため、「Job Description」を正しく作るためには、まずは「ジョブ型雇用」の概念についてしっかり理解する必要があります。
下記の図にて「ジョブ型」・「メンバーシップ型」のイメージを纏めていますが、人材配置に対する考え方が「ポジション・職務中心」か「人材中心」かという点が大きな違いとして挙げられます。
「Job型」・「メンバーシップ型」のイメージ
日本的な「メンバーシップ型」では、基本的には職務範囲・労働時間・勤務地などの限定がありません。
そして、従業員の持っている能力・経験に対して、長期的な視点でパフォーマンスを最大限に発揮できるように業務を与え、組織全体のパフォーマンスを高めることを目指します。
そのため、原則として、企業側の方針や意向により異動・転籍・出向などによる配置転換も含めて最適な職務を付与していくため、未経験の業務や本人の希望に沿わない業務にアサインするということも選択肢に入ります。
また、下命により従業員の業務量を調整したり、残業させたりすることも可能なため、業界の動向や組織目標の急な変更に対しても、柔軟にリソースを変動させられるという尤度があることが特徴です。
・職務の範囲が限定されない
・長期的な視点でのアサイン
・リソースの集中と選択が柔軟
一方、「ジョブ型」ではポジション・職務の内容を先に決めた後で、その職務に対して求められるパフォーマンスを発揮できる人材を採用し、組織の目標達成を図っていくという適所適材の人材配置を目指すものです。
そのため、採用される時点で既に職務範囲、勤務地が決まっており、その職に就く従業員は決められた範囲の業務を全うするという意識で働くことになります。
したがって、職務内容と人材のミスマッチが生じにくいものの、定められていない範囲外の業務にアサインしたり、残業を下命したりすることは基本的に出来ません。
また、既に達成して欲しい業務内容が定まっていてそれを実現するための人材を配置しているということは、そこからトレーニングやジョブローテーション等を通じて育成していくという長期的な意識は薄くなるのも特徴です。
・職務の範囲が限定的
・短期的な視点でのアサイン
・リソースはポジションで固定され非流動的
ここまで、メンバーシップ型と比較しながら、ジョブ型雇用の概要を述べてきましたが、このジョブ型の1つ1つのポジションについて書き起こしたものが「Job Description」になります。
そのため、適切な「Job Description」の作成には、このポジションを如何に決めていくかという点が最も重要なポイントです。
適切な「Job Description」作成のために、ポジションの設定・管理が最重要!
それでは、次の節で如何にポジションを設定していくかについて、解説していきます。
適切なポジションを設定・管理する
「Job Description」を活用しながら、ポジションを設定し管理していくことは、しばしば「ポジションマネジメント」と呼ばれます。
まずは、ポジションマネジメントの一連の流れを下記の図で示し、順番に説明していきます。
ポジションマネジメントのイメージ
① 組織目標の設定
まずは、年度始めや組織設立時に組織の目標を設定することから始めます。
「会社の事業戦略を実現するために、この組織が達成すべきゴールは何なのか?」という視点で必要な組織に絞って、基本コンセプトと目標を立てます。
② ポジション・レポートラインの設定
組織目標が決まったら、次にその組織に必要なポジションと果たすべき役割を明確化にしていきます。
「本当にそのポジションを設定することが必要なのか?
仮に必要だとした場合、目標に対して、どのような価値を生み出すことが出来るのか?」
という視点で考えましょう。
一度ポジションを設定した後でも、必要に応じて増やしたり、減らしたりすることは全く問題ありませんが、その際も上記の質問を繰り返して、可能な限り、スリムな組織を目指していきます。
必要なポジションが決まったら、だれがだれにレポートをしていくかというレポートラインを合わせて設定します。
③ ポジション・人材の要件設定:「Job Description」の作成
ポジションを決めたら、次は1つずつ、ポジションの詳細と人材の要件を決めていきます。
ここで「Job Description」のフォーマットを用意し、フォーマットに沿って作成に着手していきます。※記載すべき内容・作成方法については後述
④ 適材登用
最後に、設定した要件を満たす人材を配置していきます。
一度、登用した人材については、定期的に設定した職務を達成出来ているかどうかを評価し、達成状況に応じて、違う人材の登用、ポジションの数や「Job Description」を見直し等を行っていきます。
ここで設定したポジションについては、事業環境の変化や組織目標の変更に合わせて、職務の範囲・内容は徐々に変化し、求められるスキルなども変わっていきます。
そのため、定期的に見直しを行い、常に最適なポジションが保たれているように更新していくことが理想的です。
ポジションを見直す場合には、必ず「Job Description」とセットで見直しを行い、従業員に対しても、明示する必要があります。
適切なポジションマネジメントを通じて組織を運営しながら、「Job Description」で効果的に明文化していく
それでは、次の章から、「Job Description」の作成方法を解説していきますが、まずは「何を記載すべきなのか」という点を列挙しています。
「Job Description」に記載すべき内容
「Job Description」には多くのフォーマットがありますが、今回はその中の1つとして、SHRMが公開しているテンプレートをベースに記載すべき内容を解説していきます。
「Job Description」サンプル
記載すべき内容
① ポジションの情報
ポジションの情報には主に下記の内容が含まれます。
※()内は必要に応じて追加
会社名・部門名・職種
タイトル名
:契約形態・(勤務日数)・(勤務時間)・(勤務地)・(出張の頻度)
:レポートする上司・監督組織/管掌範囲・(関連部門)・(組織図)
:サラリーグレード/給与レンジ・(待遇)・(福利厚生)
② 職務の概要
職務の概要と責任の範囲を混同しないようにしてください。
職務の概要は、「職務の目的・意義」を3~4行を目安に要約して記載します。
③ 責任の範囲
そのポジションに伴う責任・業務内容を羅列し、重要な機能をすべて記載します。
(目安:5~10項目)
また、業務の内容ごとに分けて記載していきますが、一般的には「タイトル(例:○○の調査)+詳細+全体の業務に占める割合(%)」で重要度・割合が高いものから順に記載していきます。
各業務の責任を果たすために何が必要かを出来るだけ具体的にKPIなども含めて書くと、より効果的です。
数値目標が入っていることで、より目標が客観的になり、パフォーマンスの評価の透明性も高まります。
※指標として定量化できないものは言葉で記載することでもOK。
また、「その他マネージャーからの指示による必要な業務」などといったように、業務の変更や微調整にも耐えうるように、尤度を持たせておくことも可能です。
この際は、ポジションの責任を逸脱した範囲にならないように、「その他の業務」等、曖昧過ぎる表現にならないように注意してください。
④ 人材の要件
人材の要件の項目には、そのポジションに就くべき人材に求められる要件を列挙していきます。
具体的には、下記のような項目が含まれます。
必要な知識・スキル・資格・学歴
必要な業務経験
求められる行動や個人の特性(コンピテンシー)
必要な身体的な能力
業務で使うハードやソフトウェアの情報
⑤ 署名欄
訴訟リスク等に備えておくために、「Job Description」の内容に合意した記録として、関係者の署名欄を設けておくことが望ましいです。
記載すべき内容は以上の5つのポイントです。
欧米企業が実際に使用している「Job Description」のテンプレートを下記の記事に纏めていますので、合わせて参考にしてみてください。
次の章では、これらの記載すべき内容を効果的に埋めていく理想的な作り方を紹介していきます。
理想的な「Job Description」の作り方
「Job Description」の基本的な考え方
基本的には、次のステップで考え、職務の内容を深堀りしていきます。
※ポジションの特性に応じて、③→②→①→④と考えていくこともOK。
- なぜそのポジションが必要か (職務の概要)
- そのポジションに就いた従業員は何をするのか (責任の範囲:主要業務)
- その結果、何を生み出すべきなのか (責任の範囲:成果・KPI)
- 具体的に各成果をどうやって生み出すか (コンピテンシー)
理想的な「Job Description」の3つのポイント
「Job Description」は、そのポジションに求める役割を文書に落とし込み、そのポジションに就く従業員と共有していくものです。
下記に記載の際に注意すべき3つのポイントをピックアップします。
「Job Description」作成の3つのポイント
ポイント①:「職務」vs「人」
そのポジションに求められる「職務」について書くようにしてください。
よくありがちな失敗として、現職のポジションに就いている従業員を意識してしまい、責任の範囲の中に「××することが出来る」「××していた」「××を得意とする」等と「人」の能力や経験を記載してしまうことがありますが、これはNGです。
必ずだれが就くかに関わらず、「○○する」「○○の企画立案」「○○を行う」などと行うべき「職務」として対応する記載内容とするよう注意してください。
ポイント②:「期待値」vs「現状」
これも良くありがちな失敗ですが、現状の在職者の業務をリストアップすることはNGです。
また、例え、今の在職者が期待するレベルに到達していなかったり、これからそのポジションに就く従業員が求める能力を有していない場合でも、「Job Description」には、本来、組織のために求められるべき「期待値」を記載することが重要です。
在職者や就任する者のために、「Job Description」の内容が引っ張られ、期待以上に高いor低い職務内容にならないように気を付けてください。
ポイント③:「職務の目的と意義」vs「作業内容」
記載する内容は、出来るだけ、「職務の目的と意義」に則した内容が望ましいです。
例えば、セールス担当者の記載として、「××会社にコンタクトし訪問する」という「作業内容」ではなく、「○○会社からの売上10%UPに向けた採用戦略を策定し実行する」といったような求める「職務の目的と意義」にフォーカスして作成してください。
追記:7割ルール
細部に拘りすぎず、その職務のメインとなる責任の範囲や職務の概要を中心に記載をするようにしてください。
類似の「Job Description」を比べてみて、内容やレベルが7割以上同じであれば、同じものを使用するという7割ルールが一般的です。
まとめ
本記事では、「ジョブ型雇用」のベースとなる「Job Description」の理想的な書き方について、解説しました。
「ジョブ型」・「メンバーシップ型」ともにメリット・デメリットがあり、特に解雇や転職を前提とした「ジョブ型」は日本の伝統的な雇用文化に合わないとされていました。
しかしながら、グローバル化・働き方改革・シニア層の活用・労働力の減少対策など、様々な面で効果が見込まれることから、今後、ますますジョブ型雇用への移行の動きが進んでいくと想定されています。
また、本分野のHR‐Techの開発も進んでおり、近年ではソフトウェアを活用した「Job Description」の管理を導入する欧米企業も増えてきています。
ソフトウェアについては、下記の記事に纏めていますので、興味があれば、合わせて参照してみてください。