「Time to Hire:採用にかかる時間」は、採用チームの成果を測るための重要な指標の1つです。
特に転職活動が活発な欧米企業や売り手市場の状況では、この「Time to Hire」の長さが採用の成功率に大きく影響を与えるため、各企業の採用担当者は優秀な人材を採用するべく、様々なデータを分析し、如何に「Time to Hire」を短縮するかという点に注力しています。
本記事では、そうした欧米企業の取り組みやトレンドに注目し、「Time to Hire」の重要性と短縮するための9つの方法について紹介しています。
もしあなたの企業が下記のチェックリストに1つでも当てはまるのであれば、本記事を参考に改善を検討されることをオススメします。
応募を受けてから内定を出すまでに30日以上かかっている
採用プロセス途中の応募者の辞退率が高い
採用した応募者の採用プロセスに対する満足度が低い
採用活動にかかるコストを出来るだけ抑えたい
採用プロセスを改善したいが、何をしたらよいか分からない
上記のような成果の分析をしたことがない・分析したい
Contents
「Time to Hire:採用にかかる時間」の重要性
「Time to Hire」とは、一般的に「企業が採用活動を始めてから、応募者が入社に至るまでの期間」を指します。
※「応募者が応募を始めてから入社に至るまで」とする考え方も有り。
採用活動に関する指標については、数多くの指標がありますが、その中で最も頻繁に測定されるものの1つが「Time to Hire」です。
その他の採用指標については、下記記事を参照ください。
実際に、iCIMSの調査では、欧米における50%以上の企業が「Time to Hire」の指標を測定していると言われています。
これは採用にかける時間が長くなればなるほど、採用コストが高くなるだけではなく、優秀な人材が他社へ流れてしまうリスクに繋がってしまうためです。
どれぐらいの採用活動への影響があるかという点については、下記にアメリカにおける求職者を対象にしたサーベイ結果を紹介します。
「Time to Hire」に関する求職者へのサーベイ結果
Q1. 就職活動で最もフラストレーションがたまるタイミングはいつか?
A1. 57%が「面接~結果通知までの長い待ち時間」と回答。
Q2. 面接~結果通知までの期間でどのくらいまでなら待てるか?
A2. 23%が「1週間のみ」待つと回答。
Q3. 採用プロセスが長すぎると感じるのはどのくらい?
A4. 39%が「7-14日かかると長すぎる」と回答。
Q3. もし採用プロセスが長すぎると感じ場合、どうなるか?
A4. 57%が「その仕事への興味を失う」と回答。
【参考:Robert Half survey of 1,000 US worker currently employed in office enviroments】
特に優秀な人材ほど、多くの企業からオファーを受けているため、この傾向は顕著になります。
採用に長い時間をかけてしまった結果、求めている要件に合致する人材の確保が難しくなり、会社のビジネスにも悪影響を及ぼすことも少なくなく、これが「Time to Hire」の指標を企業が重要視する主な理由です。
また、効果的にこの指標を測定することで、採用プロセスにどのぐらいの時間をかけているかが分かるため、組織内の人材を補充したり、増やしたりする際にかかる時間の目安を示すことも可能になります。
尚、地域別・産業別の「Time to Hire」の平均は下記の通りです。
地域別・産業別の「Time to Hire」の平均
それでは、次の章から「Time to Hire」を改善するための方法を解説していきます。
「Time to Hire」を短縮する9つの方法
「Time to Hire」を短縮させる方法はいくつもありますが、ここでは特に重要と言われる9つの方法をピックアップしています。
1.データ分析による測定
2.採用プロセスの体系化 & 見直し
3.人材パイプラインの構築・強化
4.キャリアページの改善
5.効果的な採用ソフトウェアへの投資
6.評価テストの見直し
7.各採用システムの連動性を高める
8.求人情報の改善
9.面接スケジュールの改善
10.優秀な候補者・内定者の囲い込み
それでは、次節より各項目について1つずつ解説していきます。
1.データ分析による測定
まずは、改善のための第一歩として、「Time to Hire」を測定することから始めます。
出来るだけ、データを活用して、下記のすべてのポイントを見つけることが望ましいです。
既存のデータを整理したり、新たにデータを収集することは、間違いなく「Time to Hire」を短縮するための効果があります。
1.現在の採用プロセス全体にかかる時間:Time to Hire
2.候補者が各選考プロセスを進むためにかかる日数を分析
(書類選考・電話面接・対人面接などのステージ毎に分割)
3.産業別の標準的な日数と比較
4.最終面接の終了後、内定通知を出すまでの日数
5.自社で使用している採用システムと最新のシステムを使用したときの日数差(ソフトウェアに問題がないかを把握するため)
すべてのデータが確認出来たら、その中で問題がある期間をピックアップし、それらを改善する方法を探していきます。
検討の際には、「優秀な人材を10日待たせると、他社での採用を決めてしまう」ということを目安にしてみてください。
採用プロセス毎の「Time to Hire」の例
2.採用プロセスの体系化 & 見直し
次のステップとして、自社に一定の体系化された採用プロセスがあるかないかを確認してみましょう。
体系化された採用プロセスがないということは、単純に採用に長い時間をかけていることを意味しています。
もし既に所定のプロセスがある場合でも、分析結果を基に採用プロセスを見直してみましょう。
基本的には、採用活動を始める度に、ゼロベースで採用プロセスを見直し、継続してブラッシュアップしていくことが望ましいと言われています。
構造化された採用プロセスは費用対効果が高く、候補者を見つけて採用するための方法を合理化します。
更に、採用の失敗による損害を回避することで、ビジネスに測定可能で目に見える効果を提供することが出来ます。
(By Adam Robinson (CEO/Cofounder of hireology))
そのために、まずは採用プロセスを書き起こすなどにより可視化して、前章で分析したデータと見比べながら、チェックしてみる方法がオススメです。
・採用プロセス全体の流れはどう見えるか?
・ステップの数は適切か?
・どのくらいの時間がかかるか?
実際に採用プロセスを可視化してみた例を下記に記載しています。
採用プロセスの可視化の例
採用プロセスの作成・見直しのために、参考となる図書が下記に紹介されています。
英文ですが、参考にしてみてください。
<div class=”concept-box5″><p>15 Best Books About Recruitment To read in 2018 Harver</p></div>
3.人材パイプラインの構築・強化
人材のパイプラインを構築し強化することは、採用時間を短縮する最も効果的な方法の1つです。
もし仮に優秀な人材との強力なパイプラインがあれば、求職情報を宣伝したり、一般の応募者を待ったりする必要がなくなり、募集する仕事の要件に合致する人材にコンタクトするだけで採用することが可能です。
更には応募者の選考に時間を費やすこともなくなりますので、「Time to Hire」の大幅な短縮につながります。
質の高い人材パイプラインを構築するための基本的な5つのポイントは下記の通り。
1.頻繁に採用する業務内容を特定する
2.業務内容に対する人材要件を決定する
(スキル、経験、知識…etc.)
3.理想的な候補者を得ることが出来る採用チャネルを探す
(採用イベント、採用媒体、紹介、リファラル採用、SSN…etc.)
4.3.の中から要件に適合しそうなチャネルを特定し、コンタクトする
5.チャネルとの継続的な連絡を行い、情報を共有し合う
人材パイプラインの構築は、多くの場合、適合する候補者を集めることができる最も効果的な方法と考えられています。
※近年ではリファラル採用も注目を集めています。
目安として、採用担当者は、人材パイプラインの構築し候補者を集めるための時間として、少なくとも毎週30分は時間をかける必要があると言われています。
①採用担当者の理想的な1日、②人材パイプラインのステップに関するより深く学びたい方は下記の参考文献を参照ください。
・『What’s In a Recruiter’s day』by Kevin Wheeler/ESE
・『12 Steps to Building an Effective talent pipeline』by Niraj Kausik
4.キャリアページの改善
通常、採用プロセス中に少なくとも2回は求職者がキャリアページにアクセスすると言われています。
※1回目:求人について知った時 2回目:求人を検討している時
キャリアページの中で、分かりやすい応募要項が公開されていない場合、例えいくら優秀な人材がアクセスしてきていたとしても、応募自体を諦めてしまったり、選考を辞退されてしまいます。
応募自体を諦めた場合には採用母数が確保できず、辞退された場合は次の候補者の中から選考を考え直す必要が出てくるため、「Time to Hire」にも悪影響を及ぼしてしまいます。
そのため、キャリアページを改善することで、応募率・辞退者の両方を改善し、「Time to Hire」を短縮することが出来ます。
以下のサイトに海外企業の理想的なキャリアページがまとめられていますので、参考にしてみてください。
『8 best career page to supercharge your hiring for 2020』By Simran Singh/recruitee
5.効果的な採用ソフトウェアへの投資
優れた採用ソフトウェアは、採用プロセスの各ステップで役に立ちます。
ソフトウェアを活用することで、複数の求人掲示板に求人広告を掲載したり、求職者が応募する際にリアルタイムで通知を受けたり…etc.、採用プロセスの大部分の効率を高めることが可能です。
近年、HR-Techの分野は、アメリカを中心に開発が進められており、多様な機能が搭載されています。
例えば、面接のスケジューリング、応募アプリケーションの合理化とソート、タレントパイプラインの構築、コンプライアンスのチェック、面接の自動化(AI判定)等、「Time to Hire」を短縮するのみならず、採用効果を著しく高めることも可能なものも多いです。
ただし、ソフトウェアの導入にあたっては、データ分析などのこれまでのステップの中で、自社の課題を洗い出したうえで、慎重にニーズを分析することをオススメします。
多機能なものが増えてきている一方、ソフトウェアがオーバースペックとなり、機能を有効活用しきれない or むしろ時間がかかったという失敗事例も多くあります。
導入を決定する前に、ソフトウェアのテストを行って自社にマッチングしているかをしっかり検討した上で効果的なソフトウェアへ投資を行い、それによる採用プロセスへの効果を測定してください。
6.評価ソフトウェアの導入
採用プロセスの中で、スキルテスト・特性アンケート・認知能力評価などの評価テストを取り入れている企業も多いです。
適切な候補者を得るという点では価値がありますが、この評価テストをプロセスの中に組み込むことで、「Time to Hire」は長くなってしまいます。
採用プロセスに追加される日数の調査結果
1.スキルテスト:平均0.6日~1.5日
2.特性アンケート:平均0.6日~1.5日
3.認知能力評価:平均2.6日~4.4日
【参考:How long Should your interview Process take? by Glass door team】
「優秀な人材を10日間待たせると、他社での採用を決めてしまう」ということを踏まえると、この評価テストに関する時間を短縮することが不可欠です。
前章と同様に、効果的なソフトウェアを活用することで、評価テストによる選考の精度をあげつつも、評価テストにかかる時間を短縮することが可能です。
7.各採用システムの連動性を高める
採用プロセス全体のステップを検討するときに、出来るだけ、多くのステップが1つのシステムの中で完結して組み込まれていると「Time to Hire」の最適化に効果があります。
これを行うには、前述の採用プロセスの可視化を基に、各選考ステップで使用する様々なツールをマップ化してみてください。
連動すると望ましいと言われる基本的な採用ツールは下記の5つです。
1.採用ソフトウェア (応募・選考用アプリケーション)
2.キャリアページ
3.評価テストソフトウェア
4.人材のパイプライン
5.採用した従業員のオンボーディング用システム
これらの複数のツールが搭載されたシステムを活用する or 連動されていることが理想的です。
全てが連動すればするほど、「Time to Hire」を短縮しながら、適切な候補者を見つけることに高い効果を発揮します。
8.求人情報の改善
欧米企業では「ジョブディスクリプション」と呼ばれますが、求人情報を作成し、採用する人材の要件を決めることは、採用プロセスのファーストステップです。
この求人情報を作成すること自体は、「Time to Hire」の定義には含まれませんが、求人情報の良し悪しが「Time to Hire」にも影響するため、改善の1つの方法としてピックアップしています。
求人募集の開始時に、採用要件があいまいだと、人材の応募率が低くなり対象となる応募者の数が少なくなるため、結果として「Time to Hire」が長くなります。
例えば、下記の調査では、求人募集の内容にジェンダーに偏った単語が有るか無いかによって、応募案件の数に42%もの差が出るとされています。
ジェンダーの単語と求人数の関係に関する調査結果
【参考:『Removing These Gendered Keywords Get you More Applicants』by Zip recruiter editor】
このように、求人内容の記載内容を改善することによって、応募者の母数を確保したり、反対に、明確に細かい内容まで記載することで応募者の質を絞ったりと、応募者の量・質を調整することがにより、「Time to Hire」を短縮することが可能です。
9.面接スケジュールの短縮
面接のスケジュールの遅れは、「Time to Hire」にダイレクトに影響します。
ほとんどの企業が少なくとも電話面接も含めて3ラウンドの面接ステップを行っていることが多いので、この面接スケジュールの組み方は、改善の余地が大きい部分です。
面接スケジュールの自動化ツール等を使用すると、時間を節約することも出来ますが、面接プロセス全体の見直しするだけでも大きな効果を生むことが出来ます。
優秀な人材がいた場合、面接のステップを迅速に進ませると同時に、面接の準備をしておくことも重要です。
Robert Halfが提唱する面接準備の5つポイントを下記に紹介します。
1.求めるポジションに関する人材要件を正確に確認する
2.候補者の職歴・スキルを事前に確認する
3.主要な面接の質問を想定しておく
4.スケジュールを調整しておく
5.快適な環境で実施する
迅速かつ効率的な面接は、より早く候補者を選び出し、より早く採用するためにの時間を作り出すことを可能にします。
10.優秀な候補者・内定者の囲い込み
面接の中で優秀な候補者を見つけたら、出来るだけ早くオファーを出すことを心がけます。
候補者が選考を辞退する最大の理由は、「他社のオファーに受諾したから」です。
他社に先んじてオファーを出すことで、競合他社との採用競争に勝つ確率がぐんっと上がります。
また、内定者同士や社員とのつながりの構築、入社手続きの迅速化を進めることでも、辞退率の低下につなげることができます。
もし候補者から、カウンターオファーを提示されたり、競合する他社のオファーに関する詳細を共有してくる場合には、交渉の準備を始めることが必要です。
この時点では、既に候補者のことをよく分かっているはずなので、他社よりも優位な立場に立つために、給与以外の待遇も含めて、すべての情報を公開し魅力をアピールすることでなんとか他社へ流れないように囲い込むという戦略が重要になります。
まとめ
本記事では、採用指標の中で、最も重要な指標の1つとされる「Time to Hire」について、紹介してきました。
優秀な人材を採用するためには、如何に迅速にすべての採用プロセスを完了させることが出来るかという点がカギになってきます。
特に様々な情報がすぐに手に入る現代社会において、求職者の興味はすぐに他の企業に移りやすく、じっと一社の採用プロセスが終わるのを待ってくれることは非常に稀です。
また、長い時間を採用にかけることは、例え応募者が採用されたとしても、採用プロセスに対して良い印象をもつことが出来ず、入社後のモチベーションの低下や在職期間の短期化にもつながりかねません。
この採用指標が如何に重要かを認識したうえで、採用プロセスを見直し、「Time to Hire」を短くするための採用戦略を是非検討してみてください。