People Analytics

採用担当者が分析すべき採用指標・KPI_10選|計算方法と効果

近年、HRの分野では、人事データを活用し成果を向上させる手法として「People Analytics」が注目を集めているように、データの利活用の重要性はますます高まっています。

特にリクルーティングの分野については、多くの研究が進められており、欧米の先進企業を中心に、データを基に自社のリクルーティングについて指標・KPIを設定し、採用チームの成果の測定・追跡を行うことで、改善のための課題を浮き彫りにしています。

採用担当者
採用担当者
そうはいっても、何から始めたらいいんだろう?

と思いますよね?

そこで、本記事では、Googleの採用チームを始め、多くのデータ主導型の欧米企業で分析されている重要な採用指標を集めてリスト化し、それらが何を意味しており、どのように計算するかを一つずつ紹介します。

※参考文献は最下部に掲載。

本記事の採用指標リスト

1.Application Completion Rate: 応募フォームの完了率
2.Applicants per Hire: 採用あたりの応募者数
3.Time to Hire: 採用にかかる期間
4.Cost per Hire: 採用あたりのコスト
5.First-year attrition Rate: 初年度の退職率
6.Hiring Manager Satisfaction: 採用マネージャー満足度
7.Pass-through Rate: 選考プロセスの通過率
8.Vacanvy Rate: 空きポジション比率
9.Source Quality: 採用チャネルの質
10.Distribution of Rejection Reason: 不採用理由の分布

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採用指標(KPI)を分析すべき理由

採用指標は、採用活動の成果を追跡し、組織の候補者を採用するプロセスを最適化するために使用される測定方法です。

採用活動の重要性については、従業員の生涯価値(ELVT)の測定でも紹介していますが、適した人材を採用することで、莫大な投資収益率を生み出すことが分かっています。

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そのため、近年では、AIやHR-Tech等を採用プロセスに取り入れたり、SNS等のメディアを活用したり、様々な手法でリクルート活動が戦略的に展開されていますが、そのような採用戦略の有効性を測定するには、正確な採用指標が必要です。

まずは、データを基に採用指標を用いて自社の採用活動を正しく評価し、どこに課題や改善の余地があるのかを把握することがなによりも重要な第一のステップです。

それを行って始めて、採用プロセスを最適化するための改善について、より客観的にかつ効果的に意思決定を行うことが可能になります。

また、KPIとも呼ばれるのこのデータは、予算やワークフローを評価する際にも非常に重要です。
データが提供する洞察を武器に、チームと候補者の採用経験を向上させ、部門のお金を節約し、組織に採用チームの価値を証明することが出来ます。

本リストに掲載している採用指標は、その中でも特に重要と言われているものをピックアップしていますので、組み合わせたり、微調整しながら、自社の採用活動の測定に活用ください。

分析すべき採用指標(KPI)_10選

1.Application Completion Rate (応募フォームの完了率)

定義・概要

応募フォームの記載を始めた応募者のうち、実際に会社へ応募した割合のこと。
「Application Drop Off Rate (応募のドロップオフ率) 」ともいわれます。
応募フォームの完了率を通じて、応募書類のフォーマットと応募プロセスの有効性を測定することが出来ます。

この割合を高めることで、応募者の採用プロセスに対する満足度を高めるとともに、候補者の母数の確保に繋がるため、より多くの優秀な人材へのアプローチに繋がります。

計算方法

$$応募フォームの完了率(%)=\frac{実際に提出された応募フォーマットの数}{作成を開始された応募フォーマットの総数}$$

例えば、100人の応募者が応募フォーマットの作成を開始したものの、実際の応募者の総数が40人だった場合、「応募フォームの完了率=40%」になります。

※応募のドロップオフ率として計算する場合は、
「応募のドロップ率=100%-応募フォームの完了率(%)=60%」となります。

効果

応募フォーマットの完了率が低い場合は、応募者にとって、応募する際の申請方法が煩雑だったり、不明瞭であること等により、何らかの不満を頂いていることが想定されます。

応募者が応募フォーマットを完了しない理由を特定することで、プロセスを最適化して応募者の増加を図ることが出来ます

【例】
応募フォームの完了率が低い理由:
・設問が多く、完了するためのステップが多すぎる
・設問の内容が不明瞭で分かりにくい
・個人のプライバシーに関わる設問がある
・応募システムや様式等に問題がある   …etc.

2.Applicants per Hire (採用あたりの応募者数)

定義・概要

採用活動を行うにあたって、1つのポジションの採用に対してどれだけの応募者をスクリーニング(審査)したかを表す指標です。

この指標は、募集するポジションや企業の人気を表す指標の1つであり、また、採用チームがどれだけ効果的に応募者を集めているかを示しています。

職種によって、大きく変わるため、それぞれの職種に対して計算されるのが一般的です。

計算方法

$$採用あたりの応募者数(%)=\frac{スクリーニング前の応募者数}{募集人数(ポジション数)}$$

効果

この指標は、高ければいいor低ければいいというものではなく、適切にバランスが取れている必要があります
例えば、応募者の数が多い方が優秀な人材にアプローチできる可能性はあがりますが、その分、多数のマッチングしない候補者のスクリーニングをしなくてはならず、採用に関わる時間・コストがかかります。

採用あたりの応募者数が多数となる場合、その特定の地域や職種の仕事に対する需要が高いか、または募集している職務内容が幅広すぎるということを示している可能性があります。

その場合、募集している職務内容を見直したり、応募要件を設定することで、応募者の数を調整することが出来ます。

3.Time to Hire (採用にかかる期間)

定義・概要

組織の空いたポジションを埋めるために、採用活動を始めてから入社に至るまでにかかる日数の平均のこと。
この期間を各採用プロセスや職種、地区等の要素に分けて分析することで、1人の応募者を採用するにあたって、採用チームと会社がどの採用プロセスに多くの時間(コスト)をかけているかを測定することが出来ます。

この採用活動にかかる時間は、応募者の満足度に直接的に影響を与えると言われています。
(参考:『How to measure, track, and improve time-to-hire』by Google)

計算方法

$$採用にかかる期間=各採用プロセスの開始日から終了日までの平均日数の合計$$

尚、開始日と終了日は測定したい期間に合わせて設定する。
例)開始日:ポジションが空席になった日、募集の検討開始日、応募開始日等
終了日:採用通知を出した日、受諾された日、入社した日…etc.

採用にかかる期間の一般例は下図の通り。

 

効果

どの採用プロセスにどれくらいの時間を要しているかを確認し、採用プロセスごとに問題点の有無を検証し、改善出来るターゲットを特定します。

【例】

・特定の部門だけ非常に長い時間がかかっている
→対象部門に対する指導

・書類選考に長い時間がかかっている
→募集要項・スクリーニング方法の見直し

・社内決裁に長い時間がかかっている
→決裁基準の見直し

…etc.

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4.Cost per Hire (採用あたりのコスト)

定義・概要

1つのポジションを埋めるために、採用活動にかかったコストの平均のこと。
「採用単価」と言われることもあります。

この採用活動あたりのコストを計算することで、過去のデータに基づいて、客観的により正確な予算策定に役立ちます。
また、採用活動にかけた投資に対する効果(ROI)の計算も行うことが出来、この数値を低くさえることにより、将来の雇用計画や採用戦略の立案にも活用出来ます。

計算方法

$$採用あたりのコスト(円)=\frac{(内部コストの合計)+(外部コストの合計)}{採用人数}$$

採用あたりのコストは、様々なコストがかかりますが、大きく内部コスト・外部コストによって分けることができ、それらのすべてを定量化することで、採用コストの総額を計算することが出来ます。

一般的なコストの算出例は下記の通り。

外部コストの例 ・ 広告費用
・ 面接などの選考・入社に際してかかる経費
・ 人材紹介会社などのエージェント費用
・ 外部機関を活用した採用した社員のトレーニング費用
・ 採用システムの運用経費
…etc.
内部コストの例 ・ 社内のリクルーターが費やした時間に対する費用 (給与等)
・ 採用マネージャーが採用に費やした時間に対する費用 (給与等)
・ 採用した社員の指導や教育にかかる費用
・ 失った生産的な業務に対する費用 (営業や設計等の本来業務)
…etc.

効果

内部及び外部のコストを分解して追跡することで、採用プロセスの中で、抑えることが出来るコストに焦点を当て、プロセスの改善を図ることが出来ます

一方、コストと合わせて、応募者の質も合わせて考慮する必要があります。
優秀な人材を採用しようとする場合には、より高い採用コストが必要になったり、採用に必要な時間も長くなる場合は少なくないですが、長期的な成功のための必要なコストになります。

例えば、今年の採用コストが3倍になったからと言って、必ず悪いこととは限りません。
より高い給与の応募者を採用したり、有料の求人掲示板で宣伝したり、システムに投資をしたりということも考えられます。

その場合、高いコストであっても、よりよい効果を会社にもたらすことに繋がります。

5.First-year Attrition Rate (初年度の退職率)

定義・概要

初年度の退職率は、入社後1年の期間に会社を辞めた従業員の割合を指します。
この会社を辞めた理由には、自発的な退職と解雇の両方を含みます。

計算方法

$$初年度の退職率(%)=\frac{入社後1年以内に退職した従業員の数}{対象期間の採用人数}$$

効果

初年度の退職率をその理由と合わせて追跡することで、採用やオンボーディングプロセスの改善に役立ちます
初年度の退職率が高い場合、下記のようなケースが想定されます。

・解雇による退職率が高い場合
→1年目のパフォーマンス不良やチームとの相性が悪い  …etc.

・自発的な退職率が高い場合
→応募者が期待していた職務内容と実際の職務の不一致   …etc.

初年度の退職という採用の失敗は、直接的・間接的なコストの両方で会社に数百万円の費用がかかる可能性があります。
※コストの評価については、従業員の生涯価値(ELVT)に関する記事を参照。

人事施策の効果の測り方|従業員の生涯価値(ELTV)【Googleから学ぶ】人事施策といえば、採用・教育・人材管理・ダイバーシティ…等々、多くのものがあげられますが、その人事施策がビジネスにどれだけ価値を生み出し...

このような初年度の退職率が高い状況が続くと、募集する採用要件や職務内容の見直し、オンボーディングのプログラム強化、採用面接の見直し等の施策による採用プロセスの改善が必要となります。

6.Hiring Manager Satisfaction (採用マネージャー満足度)

定義・概要

採用した組織のマネージャーがどれだけ採用プロセスと採用された従業員に満足しているかを示す指標。

この指標を追跡することで、採用の成功率や採用活動の質を測定することが出来る。
その他の指標と合わせて測定することで、より効果的な測定が可能。

計算方法

$$採用マネージャーの満足度(%)=\frac{採用活動に関する肯定的な回答の数}{採用活動に関する回答の総数}$$

【一般的な質問リスト例】
・各採用プロセスの評価
・選考を受けた候補者の質
・選考プロセスのスピードとレスポンス
・採用された従業員のパフォーマンス及びポテンシャル

効果

採用部門の満足度が高いということは、採用された候補者のほとんどがうまく活躍できる可能性が高いことを意味しますが、比率が低いということは、採用プロセスを見直す必要があります。

どの設問に対する満足度が低いかを分析することで、改善すべきターゲットに焦点を当てることが可能です。

7.Pass-through Rate (選考プロセスの通過率)

定義・概要

採用プロセスの選考を通過し、次の選考段階に進める候補者の割合のこと。

各選考段階で候補者がふるいにかけられていくため、採用プロセスが後になればなるほど候補者の数が減少します。
各ステップごとに測定することで、傾向を把握することが出来、採用プロセスの中の問題を診断します。

計算方法

$$選考プロセスの通過率(%)=\frac{次の選考ステップに進むことが出来た候補者}{選考ステップにおける候補者の総数}$$

例えば、あるポジションの公募に対して、1,000人の応募者が集まり、そのうち、500人が書類選考を通過し、電話面接に進めたという場合、「選考プロセスの通過率=500/1,000=50%」になります。

さらに、そのうち、200人が二次面接に進めたとすると、「選考プロセスの通過率=200/500=40%」となり、同様に計算していくと下記の図のような例になります。

効果

各ステップにおける通過率から傾向を分析し、対策を検討することが出来ます

【一般的な例】
・書類選考から面接までの通過率が高い場合
(要件に合致しないのに面接すべき候補者が多すぎてプロセス全体が遅くなる)
→書類選考のスクリーニングのプロセスで候補者をもっと絞るようにする

・内定通知から採用までの通過率が低い場合
→待遇や内定通知後のケアについてのコミュニケーションを強化する

…etc.

また、辞退や不通過の理由を掘り下げて、合わせて分析するとより効果的です。
理由に応じて、より競争力のある報酬パッケージを提供したり、候補者へのレスポンスを素早くレスポンスしたりするように採用プロセスを見直し、課題を解決することも可能です。

8.Vacancy Rate (空きポジション比率)

定義・概要

組織内の全ての必要なポジション数に対する空きポジションの比率の指標。
この指標を計算するためには、組織内で必要なポジションを明確にする必要があります。

計算方法

$$空きポジション比率(%)=\frac{空きポジションの数}{組織内の必要なポジションの総数}$$

効果

会社または特定の部門の空きポジション比率を追跡することで、雇用市場や企業の成長の傾向を把握することが出来ます

【例】
空きポジション率が高い場合の理由:
・事業の急速な成長で必要なポジション数が急増
・組織内の解雇や退職者の異常な増加
・同職種の雇用市場の労働力低下や採用競争激化 …etc.

9.Source Quality (採用チャネルの質)

定義・概要

採用チャネルの質は、各採用チャネルが応募者の収集にどれだけ貢献しているかを測定するための指標です。
※採用チャネルの例:求人掲示板、採用広告、採用ツール、SNS…etc.

この指標を分析することで、各採用チャネルを通じてされた応募者の数を把握し、どの採用チャネルに多くを投資し、活用すべきかを戦略的に考えることが出来ます。

計算方法

採用チャネルを計算する際は、応募者の量・質及びコストの双方の視点が必要です。

【応募者の量・質】

$$採用チャネルの質(%)=\frac{採用チャネル毎の採用に至った候補者}{採用チャネル毎の応募者の総数}$$

【採用チャネルのコスト】

$$採用チャネルの質(円)=\frac{各採用チャネルに対してかかるコスト}{採用チャネル毎の応募者の総数}$$

例えば、下記のようなケースを見てみましょう。

一見すると、一般公募サイトが最も応募者数を集めている効果的な採用チャネルのように考えられるため、最も集客力の強い採用チャネルとして一般公募サイトに投資するかもしれません。

しかし、同時に各採用チャネルから採用した人数の内訳をみることで、より採用チャネルの質を効果的に判断することが出来るようになります。
比率が一定のままであると仮定すると、一般公募サイトが2倍の応募者を集めているにもかかわらず、実際の採用率は自社サイト・人材紹介会社の方が採用につながる応募者を集めていることが分かります。

また、この指標にコストの視点も加えることで、さらに採用チャネルの有効性を深堀することが可能です。
例えば、自社サイト・人材紹介会社の値はどちらも4%ですが、コストの面で自社サイト<人材紹介会社であれば、最も有効な採用チャネルは自社サイトであるといえるかもしれません。

効果

前述の例のように採用チャネルを比較することで、自社に本当に重要な結果をもたらす採用チャネルを明確にすることが出来、予算をどこに割り当てるかについて、戦略的で客観的な意思決定を行うことを可能にします

10.Distribution of Rejection Reason (不採用理由の分布)

定義・概要

選考プロセスにおいて、応募者が次のステップに進まず、辞退・不採用となった理由の分布を表す指標。

計算方法

$$不採用理由の分布(%)=\frac{理由毎の不採用者の数}{不採用となった候補者の総数}$$

不採用の理由とする項目は自社に合ったものを設定することが望ましいですが、下記にイメージとしてサンプルを示します。

効果

自社の選考を受けた候補者の一般的な不採用理由の分布を理解することで、多くの優秀な候補者がなぜ辞退・不採用となったかを分析し、その障害を取り除くようプロセスを改善することが出来ます

【例】
・「他社への就職」の回答率が多い場合
→遅すぎる採用プロセスを早める

・「募集要項に対する不適格」の回答率が多い場合
→募集要項を見直し、より明確な表現で細かく記載する

・「待遇面の不満足」の回答率が多い場合
→市場との比較を行い、競争力のある報酬パッケージに見直す

…etc.

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まとめ

優秀な候補者を可能な限り効率的に採用することは採用チームの究極の目標です。
その目標の達成に向けて、採用指標は、客観的に採用活動を評価し、改善するための優れたツールです。
様々な指標を組み合わせることで、ほぼ無制限に自社の目的に合った採用指標を作成することが出来るはずです。

また、採用指標を分析するためには、時間の経過を追いながら、データを蓄積しておくことが必要不可欠です。
適切なデータを用いて、適切な採用指標を追跡することで、大きな効果を発揮しますので、本記事を参考に採用プロセスを継続的に改善してみてください。

【参考になる文献集】
LinkedIn: Recruiting Metrics Cheat Sheet
Google: 20 rcruiting metrics
AIHR Academy: 19 recruiting Metrics You should Know About
Hire Vue: 8 Recruiting Metrics You Should Be Tracking in 2019
Workable: Introduction to Recruiting Metrics FAQ

アメリカ商社HR
Sean (ショーン)
大学を卒業後、日本の大手商社に就職。 入社以後、人事部でキャリアを重ね、アメリカに渡る。 現地企業でHRとして勤務しながら、グローバル企業の人事制度を研究。 最新のHRに関するトレンドやノウハウ、海外でのキャリアUP、ワークライフ…etc.について、分かりやすく解説・紹介しています。