こんにちは。アメリカ企業でHRのデータサイエンティストとして働いているSeanです。
本サイトでは、People Analytics分野のスキル・知識を習得したい方向けに定期的に「People Analyticsのイロハ」を解説しています。
今回の記事では、「People Analyticsの始め方」として、効果的なテーマ選定の方法や考え方を解説していきます。
いくら複雑で高度な分析が出来たとしても、取り組むべきテーマに正しく焦点があっていないと、会社のビジネスには全くの無価値な分析になってしまいます。
しかしながら、採用、パフォーマンスマネジメント、離職防止、働き方改革…等々、People Analyticsを適用し取り組むことができる課題は数えきれない程あり、どの課題にフォーカスするか悩んでしまいますよね?
そこで、ビジネスに最も大きな価値を提供するPeople Analyticsを始めるためにも、本記事をテーマ設定の参考にしてみてください。
People Analyticsの始め方|テーマ選定
まずはPeople Analyticsの一般的なフローについて、下記の図で示します。
People Analyticsの一般的なフロー
People Anlatyticsで分析を始めるにあたっては、明確な「テーマを設定」するということが最初のステップとなり、何より重要です。
次章より、テーマの設定について、「課題を探す」→「テーマとして選定する」という順で、効果的な方法・考え方を解説していきます。
適切な課題の探し方
People Analyticsの分析すべき課題は、「解決した時にビジネスに価値を提供する」ものでなくてはなりません。
そのために意識すべきポイントは2つです。
① ビジネス上の課題に着目 (≠人事部門の課題)
② 戦略面での課題に着目 (≠運用面の課題)
①ビジネス上の課題に着目する
人事の視点からではなく、会社の経営層や組織のマネージャーの視点に立って、彼らを悩ませるビジネス上の課題は何か?と考えることが重要です。
そのため、始めの設問は会社や組織全体に対してのものを設定し、必要に応じて徐々に階層を作って小さい設問を設定していくことをオススメします。
それでは、どのような設問がビジネス上の課題に関係するものと言えるでしょうか?
まずは、一般的な設問の例を挙げていきます。
- トップタレントが離職するリスクは何か?
- 新規事業に必要なスキルを有する人材を集められるか?
- 退職や休職などにかかる全体のコストはどのくらいか?
- 労働力は事業戦略に沿って適正に保たれているか?
- 自社の工場が直面している人材面での課題は何か?
- 事業の安全性・継続性をどのように最大化できるか?
- 従業員の人材開発・育成をどのように最大化できるか?
- 事業戦略を達成するために求める人材と現状のギャップをどう埋めるか?
・・・etc.
もちろん会社の事業規模や業態によって個別の設問もあると思いますが、どんな設問であっても、最終的に回答すべきは「経営層が抱えている悩み」と関連しているものにするという意識を忘れないことが理想的です。
尚、仮に経営層が抱える課題として一般的なものであっても、自社には適合しないものがあることも考慮しなくてはなりません。
例えば、トップタレントの離職に関する分析を始めたものの、そもそも組織内の離職率は1~2%程度で非常に低く、会社の経営層やマネージャー層は離職を深刻な課題として考えていなかったというケースなどが想定されます。
また、よくありがちな失敗例としては、人事部門が考える「興味深い問題」を最初の設問にしてしまうことです。
- ”ハイパフォーマー”とはどんな人材を指すのか?
- どのくらいの従業員が社内のトレーニングを受講したのか?
- HRのツールを活用した人数はどのくらいか?
- 昨年度、従業員が最も利用した福利厚生の制度はなにか?
- 人事部門は質の高いサービスを提供しているか?
・・・etc.
これらのテーマは、人事部門にとっては興味のある設問で、いくつかは人事部門の成果を測る指標として使用されることもあります。
しかしながら、これらは経営層が抱えるビジネス上の悩みではないことも多く、最終的なゴールとして設定すべき課題ではありません。
このように、事業に価値を発揮するために、「経営層の抱える悩み(Top5)は何か?」という視点を設問の主軸におくことが意識すべきポイントの1つ目です。
② 組織の戦略的な課題に着目する
「経営層の抱える悩み」に着目して課題見つけることが出来たら、その課題が運用面に関するものか、戦略面に関するものかという視点で課題を分類していきます。
運用面に関する課題よりも戦略面に対する課題に焦点をあてた方が解決したときのインパクトは大きくなります。
下記のようなマトリックスを意識し、見つけた課題がどのエリアに分類されるかを把握しておくとより分かりやすいです。
設問マトリックスのサンプル
以上のように、「事業部門」の「戦略面」に関する問題に着目して、課題を考えていくことが最初のステップとなります。
この際に、事業部門が設定しているKPIや重要な指標を常につかんでおくと、何が上手くいっていないかを把握することが出来るため、People Analyticsで解決しうる課題の発見や分類に役立ちます。
テーマ選定の方法
課題を見つけることが出来たら、次にその中から実際に取り組むべきテーマを選定していきます。
テーマ選定のポイントは以下の2つです。
① 解決するための難易度はどのくらいか?
② 解決したときのインパクトはどのくらいか?
理想的な進め方は、①最も難易度が低く、②解決した時のインパクトが大きいものから、順番に取り組んでいくことです。
下記の図は、この優先順を考えるためによく使用されるフレームワークです。
難易度×インパクトのフレームワーク
優先度は【1】→【2】→【3】の順番で考えていきます。
Thankless Task: 報われないタスクについては、労力は大きい割にビジネスへ与える影響は少ないので、取り組むテーマからは外しておきます。
より早く成果を出したい場合には、【1】→【3】の順で優先的に取り組むことも構わないですが、成果を出しやすい魅力的なテーマだからと言って、前述した人事部門の興味による「分析のための分析」にならないように注意が必要です。
尚、【1】Low-Hanging-Fruiteの代表的な例として、高い離職率の組織における離職分析が挙げられます。
離職分析については、一般的な企業では退職者のデータが活用できる状態で蓄積されており、難易度や労力を少なく分析できるという傾向があるためです。
他社が行った過去の有効事例も多く、実現可能な施策を計画することも難しくありません。
また、ビジネス上の影響としても、離職を抑えることで得られるコストメリットは大きく、この離職率分析から始める企業は多いです。
このように、見つけた課題の中から、実際の取り組みテーマを選定するにあたっては、このフレームワークを意識して、「①解決のための難易度」「②ビジネスに与える影響の大きさ」がどの程度なのかを考慮するとより効果的なテーマを選定することとが出来ます。
① 経営層が抱える課題を見つける
※ KPIや重要指標を常に把握しておくと有効
② 戦略面に関する課題に着目する
③ インパクトが大きい、かつ、難易度が低いものから優先順位をつける
まとめ
People Analyticsにおいて、テーマの設定はその後の分析の価値を大きく左右する最初の一歩です。
People Analyticsの分析は、「ビジネスに価値を提供する」ことが目的であるということを忘れずに、このステップにしっかりと時間をかけ、明確なテーマ設定を心がけてみてください。
Are we there yet? What’s Next for HR by Dave Ulirich/Michigan Ross school of businee