アメリカでの就労にあたって必須なビザですが、トランプ大統領の就任以後、ビザ申請の審査が厳格になっていることはご存知でしょうか?
ビザ申請・更新が却下されたり、審査が一部留保されたりすることで、渡米を希望する方が予定通り赴任できないというケースが多発している状況にあります。
実際に、私も過去にビザ申請を却下された経験がありますし、ビザ申請の遅延や却下に対する相談を受けるケースがここ数年で急増しています。
そこで、本記事では、今後のアメリカビザの申請・更新が必要な方向けに、アメリカビザの最新の審査動向と対策を解説します。
今後、アメリカビザの審査の厳格化による赴任トラブルを予測・回避するための参考になるはずです。
Contents
非移民ビザの種類と資格
1.非移民ビザとは?
米国移民法に基づき、非移民として一時的にアメリカで就労等を理由に滞在する場合、労働内容や研修の内容に基づくビザが必ず必要になります。
・ある一定期間のアメリカ滞在を目的に渡米する外国人
※ほとんどの非移民ビザ保持者は、米国人の居留を維持する
=申請はビザの任務が終了後、アメリカに戻る意思が必要
2.就労ビザの種類
就労が出来る一般的なビザは、①E-1、②E-2、③L-1A、④L1-B、⑤H-1B等があり、基本的には、そのいずれかのビザを取得し、米国内で就労をすることになります。
米国で就労する場合は、下記のビザの中から最も自社・自身にあうものを選択し、米国大使館に申請→面接→発行となり、初めて渡航が叶うことになります。
ビザ種別 | 対象者 | 申請者の資格 | 有効期間 | 更新可能回数 | 最長連続 滞在許可期間 |
E-1 | 貿易駐在員 | 管理職 or 専門職 (※2) |
5年 | 何回でも可 | 継続的に更新することで、半永久的 |
E-2 | 投資駐在員 | ||||
L-1A | 企業内 転勤者 |
管理職 (※1) |
5年 (更新時:2年) |
1回 | 7年 |
L-1B | 専門職 (※1・2) |
5年 | 0回 | 5年 | |
H-1B | 特殊技能職 | 専門職 | 3年 | 1回 | 6年 |
※1 過去3年のうち、1年以上関係会社で就労していたことが必要
※2 アメリカの労働者が代替できない(代理が出来ない)ことが要件
就労ビザ審査・発行の動向【2020年度版】
トランプ政策による米国移民制度の厳格化
2017年にトランプ大統領が就任以後、米国移民制度の厳格化が始まりました。
2017年4月18日の「Executive Order」の中でうたわれた「アメリカ人労働者の保護」となる政策(BAHA)がその代表例です。
この政策により、ビザ審査が厳格化し、入国の取り締まりが強化され始めました。
Buy American and Hire American (BAHA)
・米国製品を買い、米国人を雇うべき
・米国の従業員の賃金と雇用率を上げ、経済的な利益を保護する
(就労ビザがアメリカ人の就労を奪っているという考え方)
就労ビザ発給数の推移
2014年度以降の就労ビザ発給数の推移は下記の通り。
(出所:Travel.State.Gov)
【世界:主なアメリカ就労ビザ発給数の推移】
【日本のみ:主なアメリカ就労ビザ発給数の推移】
発給数の推移から見てみると、審査の厳格化といっても、世界的な傾向では、ビザの発給数は増加傾向にあります。
一方、日本人の発給数だけでみると、Eビザは増加傾向にあるものの、H1Bビザの発給数の減少が著しく、L1ビザもやや減少している傾向にあります。2019年度のデータはまだ公表されていませんが、更にこの傾向が顕著になっています。
ちなみに、日本人のEビザの発給数は全世界の2~3割を占めています。
・Hビザ・Lビザ:発給数が減少傾向
・Eビザ:それほど発給数に影響は出ていない
ビザ審査の動向
上記のように、Hビザ・Lビザの発給数の減少していますが、これは各ビザの審査の厳格化が影響しています。法律自体が改定された訳ではないのですが、法律の要件に対する「解釈」や「審査基準」の見直しがされており、より厳しくなっているためです。
実際のL・H1Bビザ審査に際する却下率・REF(追加証拠)の要請率は下記の通りです。
(※2019年のビザ申請の却下率=Lビザ:約29%、H1Bビザ:約24%)
このように、却下率や追加証拠の要請率があがっているのに加えて、審査の新プロセスが導入されるビザもあり、年々厳しく・複雑になっているというのがアメリカの就労ビザ申請の実態です。
尚、各ビザの審査にあたって、より強化されている審査項目は下記の通りです。
ビザタイプ | 強化されている審査項目(例) |
管理職 | 米国労働者を雇用している企業の管理職か? ・「実態のある企業」の要件審査が厳格化 ・組織図の提出が重要となるケースも有り (部下がいない、少ない場合には認められにくい) |
専門職 | 米国の労働者で代替できない高い専門性か? ・米国での職業の「専門性」の要件審査が厳格化 ・賃金レベルや学歴、職歴情報の重要性UP ・将来的なアメリカ人への移行計画が必要となるケースも有り |
上記のような項目がクリアにならないと、クリアになるまで追加の証拠を求められ続け、発給までかなりの時間・コストを有したり、最悪、却下されることになりかねません。
実際に、就労ビザの面接で、「なぜ米国人ではなく、申請者でないといけないのか?」や「アメリカで就労することにより、米国人の雇用拡大にどう影響(寄与)するのか?」といった質問をされることも増えているようです。
そのため、就労ビザの申請にあたっては、事前の戦略的な準備がますます重要になってきています。
身辺調査の強化
大統領令により、従来の申請書類の調査に加え、ビザ申請者に対する身辺調査が強化され始めました。これも最近のビザ申請のトレンドの1つです。
ソーシャルメディアのチェックも追加され、過激な発言や反アメリカ的な投稿には要注意が必要です。
【調査対象】
・過去の居住歴や雇用歴、海外渡航歴の調査
・家族に対する調査
・ソーシャルメディアのチェック
(DS-160において、FacebookやInstagram等のIDを入力することが求められるようになった)
【補足】J-1ビザの厳格化
J-1ビザは「国際文化交流」のビザであり、就労ビザではありませんが、主に日系企業のインターンや研修生などが企業研修に利用するビザです。
主目的が「研修により知識を深め、能力を向上すること」とはなるものの、申請要件が比較的少なく、短期間の現地勤務のために、Eビザ等の就労ビザに代替して申請する企業も多くありました。
しかし、近年では状況が大きく変わり、就労ビザとともに、J-1ビザについても急激な厳格化が進んでいます。
具体的には、
「なぜアメリカで研修するのか?」
「母国で学ぶことは出来ないのか?」
「アメリカで得たものを母国に帰った後、どう活かすのか?」
といった趣旨の質問を面接でされるケースが増えており、アメリカの労働者の雇用チャンスを奪うような就労的活動ではなく、母国で習得できないような研修の範囲内であることを細かく確認されるようになります。
そのため、J-1申請の際は下記をチェックすることをオススメします。
□ 研修内容を見直し、実務や就労的な活動がないことをチェック
□ 面接時、渡航目的が「就労(Work)」であると絶対に言わない
(Train,Learn,Observe,Job shadow等の用語を使い、研修であることを強調)
□ 就労行為とみなされるリスクが高い場合は、就労ビザの申請に切り替える
ビザ審査の動向:
1.審査期間が大幅に長引く
2.審査が確実に厳しい (更新時の審査も含む)
3.追加で要請される資料が大幅に増加
アメリカの就労ビザ申請における対策
かかる状況下、アメリカのビザ申請については、戦略的な対応が必要になっています。
特に、ビザを一度却下されると、その記録はデータベースに残され、今後の渡米に無期限に影響されることになってしまいますので、却下されない申請のための作成が必要です。
□ 各ビザの要件・特徴を把握する
□ 自社の状況に応じた取得しやすい適切なビザを選択する
(駐在員、スタートアップ、短期出張、研修…等)
□ 書類・面接の準備を入念に行う
(延長申請でも、サポートレター、申請書類のコピー&ペーストは厳禁)
□ 柔軟な対応が出来るよう体制を整える
(余裕を持ったタイムラインや代替装置の想定)
□ 最新の移民法の情報やトレンドを常に入手する
(新方針や変更が頻繁に発生するため)
まとめ
今回は、トランプ政権下におけるビザ審査の厳格化について、解説しました。
アメリカのビッグマーケットでのビジネス拡大を目指す企業にとって、ビザ取得は基本中の基本ですが、その難易度は年々上がっています。
それに伴い、ビザ取得時の戦略の重要性はますます高まっていくことが予想されていますので、常にトレンドや情報を収集しておくことが不可欠です。
「却下されないビザ申請」を目指して、ぜひ本記事を参考にしてください。